飲食店の人件費率の目安は?トラブルを回避しながらコストを抑えよう
2023.06.08
厳しい社会状況下にあって、いかにコストを抑えるべきか、頭を抱えている責任者も多いのではないでしょうか。コストのなかでも大きな割合を占めるのが、人件費です。人件費率は売上に対して人件費が占める割合を示す数値ですが、飲食店のコスト対策としてはこの人件費率を把握し、適正な状態にしていくことがとても重要です。今回は飲食店の人件費率の目安と算出方法、抑制する際の注意点を解説します。
目次
飲食店の人件費率の目安
飲食店経営の効率化を図るうえでは、現状把握が重要です。なかでも人件費は従業員を雇用する以上、必ず必要となる大きな経費であるため、適正化を考える必要があります。その際に指標となるのが人件費率です。
人件費率とは、売上高に対する人件費の割合で、売上高人件費率とも呼ばれます。売上収入に対し、人件費がどの程度を占めているのかを見ることで、全体的なバランスがわかります。
人件費には従業員雇用に関わる費用すべてが含まれ、主なものとして以下のような項目が挙げられます。
- 基本給や賃金
- 諸手当(ボーナス、残業手当、家族手当など)
- 社会保険料(健康保険、厚生年金保険、雇用保険、介護保険など)
- 労働者災害補償保険料
- 退職金・退職手当
- 福利厚生費用(社員旅行、健康診断、スポーツクラブの利用費用など)
- 教育訓練費用
- 人事・労務部門の経費
- その他の雇用に関連する費用(労働組合費用、採用費用、退職金積立金など)
一般的に、飲食店の人件費率の目安は20~30%と言われています。ただ業態や規模によってかなりの幅があるため、一概には言えません。
日本政策金融公庫が2023年2月に掲載している「小企業の経営指標調査」の飲食店・宿泊業の一般飲食店の業種別経営指標によると、飲食店の人件費対売上高比率は平均で43.5%と、目安よりもやや高めとなっています。
人件費率の算出方法
人件費率の算出とその結果の見方、FLコストについて解説します。
人件費率の計算と見方
人件費率を算出する式は以下のとおりです。
- 人件費率 = 人件費 ÷ 売上高×100(%)
例えば、ある飲食店の1か月の売上高が1,000万円で、1か月あたりの人件費総額が400万円の場合、
人件費率 = 400万円 ÷ 1,000万円 × 100% = 40%
となります。
この例のように、人件費率が一般的な目安に比べて高い場合、売上に対して人件費に対する負担割合が大きいことを示します。
高すぎるときには、売上高が低いか人的コストがかかりすぎている、あるいは両方が原因と考えられます。従業員の労働時間や稼働率の見直し、商品価格の見直しなど、改善策を検討する必要があると考えられます。
一方で、人件費率が低いことが一概に良いわけではないのも留意しなければなりません。
給与を始め、その他の待遇が適正ではない可能性や人手不足の状態で無理に回している可能性があり、従業員の疲弊、不満が生じる原因となります。
その場合、最終的には経営へ悪影響を及ぼす恐れがあるため、適切に判断していく必要があります。
飲食店経営におけるFLコスト
人件費率に加え、飲食店経営で重要とされる指標としてFLコストがあります。
FLコストとはFOOD(食材)とLABOR(労働)の意味で、原価(食材費)と人件費を足した費用を示します。
FL比率は、売上に対するFLコストの占める割合で、経費の主要部分です。
飲食店における平均的なFL比率は55~60%程度で、60%を超えると経営的に問題があると言われています。FLコストは営業利益と密接な関係があるため、55%以下に抑えることを意識することが安定経営には大切とされています。
FLコストについて、詳しくは以下の記事をご覧ください。
「飲食店のFLコストとは?FL比率の適正値やコントロール方法などを解説」
人件費を抑える方法
人件費の抑制は飲食店経営の全体的なコスト削減に大きく貢献しますが、サービスの品質低下につながらないよう、バランスを考えながら対策を実施することが重要です。人件費を抑える方法としては、以下のようなものが挙げられます。
FLコストから逆算して目指すべき適切な人件費の目安を把握する
サービスの品質を担保でき、かつその中でできる限り抑えた、自店舗における適切なFL比率を理解します。適切なFL比率がわかれば、その範囲で食材費とのバランスを考慮しながら、目指すべき人件費の範囲を明確にしていきます。
繁忙・閑散時間帯の見極め
シフトの最適化を図り、過不足のない人員で業務が回るよう、スタッフの配置を見直します。季節的な繁忙がある場合には、その期間のみ短期スタッフを活用することで常時雇用を調整できます。
シフト体制の見直し
シフト希望制度、週単位でのシフト決め、スキルによるスタッフの組み合わせ、シフト交代制度などシフトに柔軟性を持たせることにより、従業員満足度に配慮しながら適切な人員配置につなげられます。
オペレーション、作業フローの見直し
業務の流れや手順を簡素化し、工数にかかる手間や時間を削減することができます。例えば、メニューの種類を減らす、調理工程を合理化するなどが挙げられます。また在庫管理の方法を見直し、在庫の可視化を行うことで、作業時間短縮に貢献します。
IT技術の活用
IT技術を活用し、業務の一部を自動化することで、スタッフの手間や時間を削減することができます。フロアにおける注文や会計の自動化、厨房における調理の自動化などにより、時間短縮と人員削減が実現します。
教育体制の見直し
従業員の教育・トレーニングを強化することでスキルアップができ、効率的かつ正確な業務につながります。また、マニュアルの整備による教育指導の時間を削減、タブレット端末の導入による情報共有、業務効率化なども有効策となります。
人件費を安易に削減したときに起きやすいトラブル
人件費削減は純利益を高めるために効果的な方法ですが、安易に実施してしまうとトラブルの原因となります。起こりがちなトラブルには、以下のようなものが考えられます。
モチベーションの低下
人件費を削減するために、従業員の給与や福利厚生を削減するといった方法は、給与・待遇への不満から働きがいが低下し、離職の増加につながる恐れがあります。
過重労働
人件費削減を目的に人員を減らし過ぎると、在籍する従業員に業務増加や長時間労働といった負担がかかります。無理なシフトを組まざるを得ない状態が続くと、労働基準法に抵触するリスクが発生します。また従業員からの訴え、労働局からの指導など、法的トラブルに発展する可能性があります。
サービス品質の低下
人件費を削減するための人員削減、一時雇用者の増加により、業務の質が低下し、十分なサービスが提供できなくなる可能性があります。
人件費削減において、個人が担当する業務の範囲が拡大したり必要な訓練が行われなかったりすると、習熟度が低いまま仕事をしなければなりません。
細かな部分に目が行き届かなくなる、時間がなく作業が雑になることが常態化すると、店の信用が低下します。
人材育成負担の増加
人を減らした分、個人あたりの仕事が増えると、教えること・覚えることも増えていきます。指導役の負担も重くなりますが、人員が足りないとそもそも指導をする時間が取れません。
新人が育たず、ようやく雇用できても定着しないという状況が繰り返され、悪循環に陥る危険性があります。
適切な人件費抑制のみならず広い視野で上手にコスト削減を図ろう
コスト削減は飲食店の最重要課題ですが、コスト対策にこだわるあまり極端に人件費率を下げようとすると、経営そのものに支障をきたす恐れもあります。大切なのは人件費率の適切な管理。また、人件費だけに着目するのではなく、FLコストでバランスを取ることも有効です。
FLコストのF、つまり食材費を抑える方法については、以下が参考になります。
「原価率の低いメニューとは?メニュー例と検討する際の注意点も紹介」
また、飲食店における有効なコスト対策は、人件費を抑えることだけではありません。下記の記事が参考になりますので、ぜひご覧ください。